米経済と為替の長期見通し

本稿のテーマは再び市場参加者の興味の対象に浮上したFRBのバランスシート縮小シナリオ再検討だ。

まずは状況を整理。分かっていること、分かっていないことを確認した上で先行きを展望したい。その上で再投資停止、FRBのバランスシート縮小がもたらす米国債市場への需給インパクトについても検討したい。

 

結論を先取りすれば、FRBシナリオに沿った(ハードル高めの)望ましい経済環境が実現すれば、
① 再投資の段階的停止は17年後半~年末にスタート
② 米国債市場への需給インパクトは向こう5年間に発現しやすい
③ 需給の緩みはその時々の国債発行計画次第も、16年12月時点の米国債発行を
前提とすれば、短期~中期ゾーンで供給余剰感が醸成されやすいとの見通しだ。一方、当方では「FRBが景気減速の向かい風に逆らえずバランスシート縮小に
は踏み切れない」とのメインシナリオを維持している。

 

FRBバランスシート縮小シナリオを再検討する前に、過去の大量資産購入政策(QE)の変遷を振り返っておきたい。切り口はFRBが議会から課された「2重の使命(デュアルマンデート)」、つまり「①インフレ率+2%と②雇用最大化の未達度合い」という観点で大量資産購入政策(QE)の経緯を振り返ってみた。まず、08/11~10/6に実施された大量資産購入計画・第1弾(QE1)当時は、実態経済の急激な悪化に歯止めをかけるべく、FRBの初動は大幅利下げ、最終的には「ゼロ金利政策導入(08/12~15/12)」へと至った。しかし、利下げだけでは景
気減速に歯止めがかからずと見て、FRBはデフレ転落を回避すべく、非伝統的な金融政策手段、資産購入プログラム導入へと踏み出した。一度は資産購入停止に踏み切るも、FRBは再度、資産購入プログラムの導入を迫られ(QE2@10/11~11/6)。当時のマクロ経済環境を振り返ると、実態経済の減速には歯止めがかかるも、物価の再下落に対処すべくFRBは緩和再開の決定を下した様子が見えてくる。

しかし、QE1に続き、QE2でも出口を急ぎすぎたばかりに実態経済と物価の再鈍化懸念が浮上。12年9月に「大量資産購入プログラム・第3弾(QE3)」導入を迫られた。同政策が功を奏したが故、13年5月、バーナンキ・ショック1が市場を襲い市場金利が上昇。

QE3の終了をマーケットは意識し始めた。FRBは過去、2度も出口に失敗した教訓を生かし、一度に資産購入を停止するのではなく段階的な縮小を選択。14年1月、テーパリングへと踏み出した。その後、景気回復、インフレ上昇の追い風を受けてQE3を無事終了。
15年12月にようやくゼロ金利解除までこぎつけた。

 

バランスシート縮小に向けた議論を FOMC は 16 年末に再開

ゼロ金利解除に至った今、残る出口戦略の課題は再投資停止を伴う巨額に膨らんだバランスシートの縮小だ。「政策金利正常化が軌道に乗るまで再投資を継続」がFOMC声明文に明記された基本シナリオ。16年12月に追加利上げを実施、まだ政策金利の正常化が軌道に乗ったとは到底いえないが、FOMC参加者の間で、政策金利の道筋の見通し変更に伴って、バランスシート政策にも「影響があり得る」との議論を12月会合・議事録で確認できた。FOMCが再投資停止を検討し始めた、との懸念が市場参加者の間でも広がりつつある。

 

最短 3 か月程度の時間があれば、再投資停止政策を実行可能な準備をFOMC は整えている模様

再投資停止戦略について、FOMCはどの程度、準備が整っているのだろうか?当方の見立てでは、結論は大方出ている模様。最後の詰めさえ整えば、いつでも実行可能にみえる。まず、バランスシート縮小シナリオにつき、今、現時点で分かっていること、分かっていないことを確認したい。使える材料は14年9月FOMC発表の工程表だ(表1)。最初に工程表を提示したのはQE2終了時(表1・左)。当時、FOMC参加者は「再投資停止でバランスシート縮小→利上げ」という段取りを想定していた。同時に、政府機関債の売却も視野に入れていた。しかし、そ
の後、QE3開始を迫られることとなり情勢が変化。それを加味して14年9月に出口戦略の改定を実施した。そこでは、
① 利上げ開始後に段階的縮小 or 停止
② MBSは満期保有(売却を意図せず)⇒ B/S最低水準到達は2010年代の終わり
とのシナリオ提示。従前シナリオの軌道修正を図った。

さらに、直近、バランスシート問題について議論をした最後の会合、15年7月FOMC議事録をみると、大方の(most)FOMC参加者が出した結論、つまりFOMCコンセンサスは、- 「再投資停止のタイミングは経済環境、見通しに関わる質的な評価に基づくことを嗜好」- 「再投資を段階的に縮小するか、バランスシート縮小を『予見可能な方法で』急激な変動を伴わないよう管理していくのが最善」- 一気に再投資停止案を支持した参加者は少数というものだ。一方、決まっていないこともある。
– 米国債とMBSで再投資停止の扱いを変えるか否かは結論持ち越しとなった。FOMCは再投資停止をいつ始めても良いくらい、ある程度、議論を出し尽くしたようにみえる。残る問題は①再投資停止のタイミングと②米国債とMBSの取り扱いの差異程度。1回のFOMC会合で議論して議事録を通じて概要をマーケットに提示、納得してもらった上で再投資停止を実行、つまり、最短3か月あれば十分実行可能な準備は整っているようだ。

 

経済見通しに依存する再投資停止のタイミングに関する議論は後述するとして、まず、想定される米国債金利のリアクションについて考えてみたい。そのヒントはFRBの保有資産の年限構成にありそうだ。2015年末時点において、FRB保有証券の年限分布は経年変化で
(1) 6年ゾーンまでの米国債・中短期ゾーンが60%
(2) (再投資の結果)10年超の超長期ゾーンが23%
を占めていた。16年の再投資はさほど大きくなかったことから鑑みて、現在の資産保有構造は1年程度年限が短くなったくらいでほぼ変わっていないと考えられる。もし、再投資停止が実施され、これまで淡々と米国債を買ってくれたFRBが市場から退出することになれば、米国債市場への需給インパクトは再投資停止後「5~6年間」が大きくなりそうだ。

 

では、どの年限の米国債にインパクトが大きく現れそうか?その答えはFRBの保有資産再投資における資金配分に依存する。FRBは満期を迎えた保有証券を財務省の米国債発行割合に応じて案分して再投資を実施している。具体例(NY連銀の公表資料から抜粋)を考えたい。仮にFRBが10億ドルの償還間近の米国債を保有しているとする。国債の入札日に米財務省が3年債、10年債、30年債を表2の通りに発行するとした場合、FRBの再投資は各年限の債券の発行シェアに応じて比例配分される。そのため、今後、再投資が停止されたときの米国債イールドカーブに及ぼす需給インパクトは、その時の国債発行計画に依存する。例えば16年12月の米国債発行金額をみると、2年~7年ゾーンの発行が相対的に多い。購
入資産割合(市場実勢)に応じてイールドカーブ全体に需給の緩みは現れるが、特に16年12月時点の国債発行計画が近い将来、そう大きく変わらないと考えれば、需給インパクトは中短期に偏りやすいことになる。

 

再投資のタイミングはいつになるのか?経済データ次第、がFOMC基本シナリオなのだろうが、17年に入って「FF金利=100bp」を再投資開始の目処にしたい、との発言をFRB当局者から聞くようになった。例えば、ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁は17年1月12日の講演で「FF金利が100bpに達した時点で、米金融政策当局はバランスシートの再投資停止を検討し始め、その後でバランスシートの縮小に取り組むことができるようになる」 と語った。16年12月のFOMC会合では(議事録には出てこずとも)「1%」という数字が飛び交う議論をしていたことは確かだろう。FOMCで中立に近い立場のハーカー総裁から「1%」という数字を聞いたのだから、それなりの数のFOMC参加者が同程度の水準を再投資停止の目処と見なしていても不思議はない。
もしFRBのシナリオどおりに事が進むなら、そのタイミングは17年後半。早ければ6月(FF金利ターゲット上限が1%に)、あるいは9月にFF金利=1%を見ることになる。そこから議論を始めて最短3ヶ月で準備完了となれば、早ければ17年9月、あるいは12月FOMC会合で再投資政策の段階的縮小が決まりそうだ。

 

再投資停止実行の条件とは何か?実現のハードルは高いとみる。QE2を終了した時点の旧・出口戦略では「再投資停止でバランスシート縮小→利上げ」という段取りだった。バランスシート縮小開始で市場金利に上昇圧力をかけてから(≒FF金利の引き上げを容易にしてから)利上げに踏み切る、という自然な流れをFOMCは目指していたようにみえる。しかし、改定・出口戦略の下、FOMC声明文において「利上げが軌道に乗るまで再投資を続ける」と表明した。「軌道に乗る≠利上げ停止」なのだろうから、利上げを継続しつつ、再投資停止、バランス
シート圧縮という更なる金利上昇圧力につながる政策を後から追加する意向へFOMCが転じたことになる。もし、市場の納得感が得られぬまま再投資停止に踏み切れば、FOMCは(例えばトランプ政権の拡張的財政政策で景気の上振れリスクを危惧、インフレ加速を懸念して)金融政策引き締めを加速させたのではないか、との疑心暗鬼を生む恐れがある。「自作自演で無用なボラティリティを作りたくない」という(例えば16年9月FOMCで再確認できた)FRBの行
動パターンを鑑みれば、市場が十分納得せずして再投資停止に踏み切ることは無さそうだ。
例えば、潜在成長率(FOMCは+1.8%予想)を十分上回る①経済成長を持続、加えて②賃金上昇トレンド顕在化(例えば前年比+3%超え定着、さらなる上昇)を見れば、市場も渋々だろうが再投資停止を受け入れよう。ただし、この経済環境が実現するハードルは高い。当方では米国の需給ギャップが依然マイナス圏、賃金+3%台の定着は無いとみているが故、再投資停止シナリオは実現せずバランスシート規模は現状維持、をメインシナリオに据えている。

 

 

一方、FOMCは(当方よりずっと)楽観的だ。イメージトレーニングとして、FOMCが思い描くバランスシート縮小シナリオを考えてみたい。ここでのヒントは15年2月27日のフィッシャー副議長講演だ。これ以降、突っ込んだバランスシート関連発言をした当局者はいないので、副議長発言は依然、有効と考える。副議長は同講演で、

(1) 「MBSを売却する意向はなく、主として再投資停止でバランスシート規模の
正常化を計画している」
(2) 「25年末までに満期を迎えるFRB保有証券の累計額は3.2兆ドル」と試算
(3) 「再投資停止を選択するときが来ればバランスシート規模は自然に減少していく」
との見解を示した。もし、仮に17年後半に再投資停止がスタート、25年末までに▲3.2兆ドルの保有資産減少を再投資停止だけで実現したときのFRBバランスシートのイメージが図1の「(赤い)矢印」だ。このペースで進めば、ちょうど25年末までに金融危機前のバランスシート(@07年11月)水準へとたどり着く。現時点でFOMC参加者がイメージしているバランスシート縮小策は、何年かけてでも、再投資停止だけで段階的に保有資産を金融危機前水準へと導くシナリオのようだ。

 

本稿後半のテーマはトランプ大統領誕生後の財政政策展望だ。1月20日、トランプ大統領が正式に就任した。注目の就任演説は(経済政策の具体的な内容に踏み込みことは無く)「米国第一主義(America First)」を繰り返し、政治・経済・貿易の既得権益を打破して国民主導(by the people)の政治体制へ移行、国内の雇用創出に注力する方針を繰り返した。
就任演説は国民向けのメッセージ性重視が通例なので、今回も具体性を欠いたことは想定どおり。一方、ホワイトハウスのウェブサイトには

上院へ送付された閣僚リスト、に加え、
② 「政権の公約(マニュフェスト)」らしき6項目からなる文章
がリリースされた。

 

いずれの政権公約にも目新しさは無い。市場が一番知りたい経済政策、特に拡張的財政政策の進め方については書かれていない。少なくとも分かるのは、財源が乏しく、インフラ投資を含む歳出拡大は当面、見込み薄ということくらい。総じて実現可能性を疑いたくなる経済政策について、如何に現実味を持たせるか、これは至難の技だ。
一方、政権後退に伴うワシントンの大人事異動の最中ゆえ、政策要綱の根拠付けに時間がかかるのは当然のこと。米国民も(あるいはトランプ・ラリーで沸く市場も?)全ての政策がすぐにでも実現すると期待して次期政権をトランプ氏に委ねたわけでは無いだろう。国民が生活を変えてくれる希望をトランプ氏に見出したと考えられる以上、次期政権が最低限達成しなければ「先が無い(≒2年後の議会選挙、4年後の大統領選挙で再選は無い)」と言っても過言ではないのは「雇用創出」だ。これさえ実現すれば、(ポピュリズムに流された)国民はトランプ新政権の継続を望むだろう。それは次期政権も承知の上。+4%の経済成長は人口高齢化(+移民抑制)下では実現困難であったとしても、10年で+2500万人の雇用創出は十分に手が届く。
16年は+203.2万人の雇用創出を実現、15年の+278.9万人からは鈍化したとは言え、まずまずのペース。FRBも認める完全雇用達成間近の米国経済は、今後、雇用者数の伸び鈍化に直面するので、+200万人/年ペースの雇用創出を実現するだけでもハードルは高い。しかし、やろうと思えば達成可能。その手段として、大手企業(主として自動車メーカー)に直接、大統領が直談判して雇用の場を確保する「トップ外交」が現時点では功を奏している。これが望ましいか否か(あるいは長期的に持続可能か)は別として、もっとも大事な「雇用」を生み出す
大統領というイメージ構築には成功したかもしれない。トランプ政権、出だしはまずまず、との評価が妥当にみえる。

 

国民は雇用さえ確保されれば満足かもしれないが、市場は違うように思う。今後、議会の承認、特に(共和、民主が僅差である)上院の支持が必要な案件、多くの法案成立には時間が必要だ。議会とトランプ政権の関係修復の前途は多難。政策実現までに時間かかるほど、市場の高揚感は剝落しやすい。
一方、トランプ政権はスピード重視。 すぐに着手可能な事案に早速取り組もう。それは「大統領令」による既存の法律に基づく政策運営方法の変更だ。例えば、不法移民の強制送還、オバマケアの骨抜き、等。これら手のつけやすい問題で国民と市場の関心を引き付けているうちに、
(1) 議会との融和関係(or 妥協)を構築
(2) 財政・エネルギー・外交、等の重要課題で法案成立、実現
へと導く道筋をつけ、市場の期待をどこまで引っ張れるか?ハネムーン期間が勝負となろう。
どこまで議会を味方につけられるのか、トランプ氏にとって最初の正念場は就任後100日間に訪れる。現政権の出方について様子見スタンスのFRBが動向を注視する中、市場もトランプ・ラリーの持続性について疑心暗鬼になっても不思議ではない。議会の抵抗が強く、マーケットの思い描いていた拡張財政路線が見えてこない展開が当方のメインシナリオだ。トランプ・ラリーが終焉、10年金利は財政政策の期待剥落で3月末2.1%へと沈む当方見通しにつき、今回のトランプ大統領就任演説を聞いて幾分確信の度合は高まった。

 

 

米国 10 年債利回りとドル/円の関係が変化する

次期財務長官に指名されたムニューチン氏は、19 日行われた指名承認公聴会での質疑応答で、ドルについて「ドルの強さは恐らく、短期的には米国の貿易力に悪影響をもたらした可能性はある」(Bloomberg)としながらも「重要なのは長期的な強さ、つまり長い期間にわたる強さである」(同)と発言し、強いドルが国益との米国の伝統的な政策の継続を示唆した。経常赤字国であり、海外からの投資資金によってファイナンスを行っている米国にとって「強いドルは国益」であり、次期財務長官として当然のコメントである。敢えてドル高政策を採っていくという意味ではなかろう。他方、ムニューチン氏は「中国が再び為替操作を行えば、米政府が同国を為替操作国に認定するよう勧告するか」との質問に対し、「私はそうするだろう」(同)と発言。中国の為替介入は自国通貨の買い支えであり、つまり現時点では為替操作国には当たらないはずであるが、トランプ氏、ロス次期商務長官に続き、対中強硬路線を意識させるようなやり取りであったことに相違ない。
翻って、米国 10 年債利回りとドル/円の散布図に注目すれば、両者の関係に明
確な変化が生じていることが分かる。

1 月 3 日時点と比べると、10 年債利回りが上昇(2.445%→2.475%)している一方、ドル/円は 117 円 75 銭から 114円 86 銭まで下落しており、米長期金利上昇の下でドル安高が生じている格好である。そして、この 2017 年入り以降のバランスの変化の拠り所こそが、1 月 12 日付、同 18 日付、同 19 日付の当レポート等で再三指摘した「米国の保護主義化」の懸念である。

ドル/円を考えるうえで、トランプ新政権の対日通商政策に注目が集まるなか、ここ数日トランプ新政権のスケープゴートは完全に中国となっており、「ドル安懸念は対円ではなく対人民元のもの」という点をドル/円の上昇要因と捉える向きも多い。
「人民元が対ドルで増価すれば、日本の輸出競争力が高まる」というような楽観論さえ聞こえる有様だ。

但し、生産年齢人口の伸び鈍化(減少)のなかでの過剰投資(しかも過剰債務)を抱える中国において、内需にアップサイドはないだろう。

中国政府が投資拡大を行うことは勿論可能だが、それは単にバブルを助長しているに
過ぎない。つまり、同国が「健全な形で」経済成長を行っていくためには外需拡大(維持)は不可欠であり、斯かるなかでの人民元高は中国経済を大きく陥れかねない。同国の世界経済に及ぼす影響を考えれば、人民元高はグローバルリスクオフの最大のトリガーであろう。
世界的にリスク許容度が低下すれば、調達通貨である円は買われる。インデックスで見た場合にドルもまた上昇(恐らく新興国通貨や資源国通貨が下落)する可能性も高いが、少なくとも円安は起こるまい。米国長期金利上昇のなか、19 日はダウ工業株 30 種平均が 5 日続落となったが「米国が対中強硬路線を維持すれば、米国長期金利が上昇しても円高」との見解を持ちながらトランプ新大統領の就任式および「初仕事」に注目すべきであろう。

米大統領就任年はドル高確率が高い

DMMFXでドル円のトレードをするにあたって、知っておいてもらいたい情報を書く。

今年はトランプ氏が米大統領に就任するが、米大統領就任年はドル高となる確率が比較的高い、というものだ。

大統領選以降のドル円

1973 年以降で米大統領就任年は 11 回あるが、ドル実効為替(対主要通貨)は 7 回上昇している。上昇率が大きい順に、97 年+10.7%、81 年+10.1%、2005 年+8.2%、01 年+7.3%、13 年+4.1%、89 年+3.5%、93 年+1.2%である。

81 年はレーガン大統領が掲げた「強い米国、強いドル」、05 年は 04 年 10 月に成立した米本国投資法(HIA)によるリパトリエーション(資金の本国送還)の増加が、ドル高に作用した。97 年はアジア通貨危機、01 年は米 IT バブル崩壊や同時多発テロを背景としたリスクオフ(安全志向)が、ドル高に作用した。

必ずしも米国経済が強くなくても、質への逃避で消去法的にドルが買われるケースがある。

一方、ドル実効為替は 4 回下落しており、下落率が大きい順に、85 年▲12.8%、09 年▲6.9%、77 年▲5.7%、73 年▲5.5%である。85 年は先進 5 カ国(G5)がドル高是正で合意したプラザ合意、09 年はリーマンショック後の世界景気底打ち、77 年は米国貿易収支悪化、73 年は変動相場制への移行が、ドル安に作用した。

米大統領就任年の 11 回中、米国景気がピークアウトしたのが 81 年と 01 年でともにドル高、ボトムアウトしたのが 09 年でドル安である。

他の 8 回はいずれも米景気回復期間中でドル高 5 回とドル安 3 回に分かれる。米国や世界の景気がピークアウトするときはドル高、ボトムアウトするときはドル安になりやすい傾向がある。

米保護主義圧力が強まるとドル円下落

ドル円についても、米大統領就任年はドル高・円安となる確率が比較的高い。ドル円は 7 回上昇しており、上昇率が大きい順に、13 年+21.5%、89 年+15.0%、05 年+14.8%、01 年+14.6%、97 年+12.7%、81 年+8.2%、09 年+2.5%だ。

13 年は黒田日銀総裁就任後の異次元量的緩和、01 年は日銀初の量的緩和が円安に作用した。

また、89 年は日本の消費税導入と対外投資(海外への資本流出)拡大、97 年は日本の金融システム不安、05 年と 09 年は市場のリスクオン志向が円安に作用した。

量的緩和が円安を招くケースが目立つほか、05 年以降は円を資本調達通貨としてリスクオンが円安を招くケースが出てきた。09 年はリスクオンの円安がドル安を上回り、ドル実効為替が下落する一方でドル円が上昇した。

 

米保護主義圧力が強まるとドル円下落

一方、ドル円は 4 回下落し、下落率が大きい順に、85 年▲20.4%、77 年▲18.1%、93 年▲10.5%、73 年▲7.1%。85 年は米国の対外赤字拡大を招いたドル高の是正
で国際協調したこと、77 年と 93 年は日本貿易黒字・米国貿易赤字の拡大で米国から円高圧力が働いたことがドル安・円高の原因となった。米企業の輸出競争力が低下して米政府・議会の保護主義圧力が高まることがドル安・円高を招いてきた。

主要自動車メーカーのメキシコでの生産をけん制するトランプ氏の発言は、保護
主義圧力にほかならず、ドル安要因とみるべきだろう。なお、これまでのところ、
米大統領就任年にリスクオフがドル円の下落を招いたケースはみられない。

 

米大統領就任年は 1-3 月にドル高、10 月にかけてドル安の傾向

米大統領就任年の為替変動を平均化すると、ドル実効為替、ドル円ともに 1-3 月に上昇後は伸び悩み、ドル実効為替は 7-10 月に下落傾向、ドル円は 4-10 月に下落傾向となる。

2017 年も、トランプ新政権の政策方針が明らかになる 1-2 月にドル高となるのだろうか。ただし、前年(米大統領選挙年)11-12 月には、過去の平均的な為替変動パターンを大きく上回るドル高が進んだことを忘れてはならない。

すでに市場は米国の財政政策や規制緩和への期待を高めてきただけに、さらに政策期待を高める要因が出てくることか、米景気指標が市場予想を上回ることが、ドル高の進行には必要だろう。そうならないとリスクオフと米金利低下に傾き、ドル実効為替は横ばいの一方で、ドル円が下落することも考えられる。

また、4 月と 10 月に発表される米半年次為替報告書で、米国は中国を為替操作国に指定するのか。

保護主義政策を具現化した場合、ドル安に傾きやすくなるだろう。

なお、12 干支別のドル円上昇率(1971 年以降 4 回の年平均、とり年は 3 回)上位は、へび+8.2%、たつ+5.9%、とり+4.2%、ひつじ+1.6%で、他の 8 つはマイナスだ。とり年のドル円は、81 年+8.2%、93 年▲10.5%、05 年+14.8%、ドル実効為替は、81 年+10.1%、93 年+1.2%、05 年+8.2%である。4 年周期だけでなく12年周期でも、17年はドル実効為替やドル円の上昇確率が高いことになる。

8 年前後の周期ではドル円下落の可能性

しかし、別の面からは、ドル円が下落する確率が高いとも言える。73 年以降のドル円相場には 8 年前後の周期があり、近年では 2011 年にボトムアウト(円高から円安に転換)後、15 年にピークアウト(円安から円高に転換)した。

次のドル円のボトムは 18-20 年に到来する可能性が高いことになる。17 年は、ドル円が一段と上昇して 15 年のピークを更新する可能性よりも、下落する可能性が比較的高いようにみられる。

特定の経験則にとらわれず、総合的にみる必要があるだろう。
世界の経済状況を鑑みて市場の期待が修正されながら、為替相場は変動していく。
2017 年がドル実効為替やドル円が上昇する年になるか、下落する年になるかは、米景気拡大とリスクオンがドル高にも関わらず持続することが可能か否か、米新政権が保護主義的でドル安志向となるか否か、にかかっているのではないか。